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2020/11/05『黒』『暴食』『星』
「ママ、歩くの疲れた」
「ええ? あとちょっとなのに……いいわよ、抱っこしてあげる」
暗い夜道。息子を抱き上げて、家まで歩く。
「……ママ、お星さまが見えないよ。お空が真っ黒」
言われて空を見上げれば、確かに雲が空を覆いつくしてしまって、光がどこにもない。
「ねえ、どうしてお星さまがないの?」
「それはね」
頭の中で、大急ぎで物語を作り出す。
「真っ黒な雲が、お星さまを食べちゃったからよ」
「えっ、雲ってお星さま食べるの?」
「今日みたいに本当におなかがすいちゃったときは、ひとつ残らず食べちゃうのよ。でも、大丈夫。おなかがいっぱいになったら、お空にちゃんと、お星さまを返してくれるから」
ほんとに? と耳元で問いかける息子に「そうよ」と優しく言葉を返す。
「さ、そろそろ家につくわよ」
「家着いたら、お風呂入りたい」
「そうね。お湯は沸かしてあるから、一緒にあったまりましょう」
冷たい風が、頰を撫でて過ぎ去っていく。
暖かな家は、すぐそこだ。




