2020/10/27『リアル』『晴天』『色欲』
晴れ渡った空。眩しい光。笑い声。
そんな世界は、全てカーテンの外にある。
「ねえ、ぼくが嫌い?」
「……嫌いじゃない」
この薄暗い部屋の中で、同じやりとりを何度繰り返したことか。
「じゃあ、ぼくが好き?」
「……好きでもない」
「素直じゃないね」
――そんなこと言わないで。私は正直に答えてる。
そう言葉を紡ごうとして。
でも、喉でつっかえてしまって。
「こっちにおいでよ」
差し伸べられた手を、私は何度も摑んでしまう。
手を取らなければ、逃げ出してしまえば、私は自由になれるというのに。
……いや、この部屋を出たところで、自由にはなれない。広い世界へ逃げたとしても、彼は私を見つけ出して連れ帰ってしまうだろう。
この狭い、監獄の中へ。
この人の愛は、もはや愛ではない。
私の心も、きっともうねじ曲がっている。
でなければ、好きでもない彼のもとに留まり続けたりしない。さっさと逃げてしまう。もしさっきのように素直じゃないと言われても、正直に答えていると返せるはずだ。
――狂っている。彼も私も。
唇に落とされた愛情が、私を思考の渦から引き摺り出す。
体に回される腕は、耳元で感じる息吹は、あまりにリアルだ。これが夢ではないと、現実であると私に突き付けてくる。
「好きだよ」
耳に忍び寄る、愛の言葉。
私は彼の愛情の中で、ただただ、溺れるだけ。




