2020/10/22『色欲』『強欲』『赤』
目の前で、彼岸花が咲いた。
真っ赤な、真っ赤な、花が。
「……あんたは、知らないんだろうな」
聞いたことのない声が、鼓膜を震わせて。
なにかを吐きながら、倒れ込んだ。
吐いたものが、すぐ近くにある――血だ。
「あんたの欲で、妹は死んだんだ」
「……欲……」
心当たりがない。
「そうだ、欲だ。あんたの強欲と色欲が、妹を殺したんだ。……あんたは知らないんだろうな。欲を満たして幸せになっただけだろうからな。でも、その裏で、妹は苦しんだんだよ。そして、ついこの間……この世からいなくなっちまった。自ら命を絶ったんだよ」
覚えていない。
そんなの……知らない。
「……もしあの世があるんなら、そこで裁かれたっていい。俺は、あんたが憎くてたまらないんだよ」
目の前が、暗くなっていく。
「……俺は、なにも……」
なにもしていない、はずなのだ。
もし、もしも、なにかの罪を犯したのならば。
それこそ、あの世で裁かれていい、と思った。
もちろん、そんな場所があるなら、の話だが。
「これで妹も、少しは救われるだろうよ」
その言葉とともに、首に走った痛み。
耐え切れるわけもなく、俺は、意識を手放した。




