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2020/10/19『ベッド』『童話』『辛い』
「悲しい夢は見たくないから、楽しいお話をして?」
娘がベッドの中でそう言って、私をキラキラとした目で見る。
「今日は、ハラハラドキドキする冒険の物語よ」
そう語りかけてから、私は童話を読み上げる。いや、それは児童書に近かったのかもしれない。
私が幼い頃、心の友とした物語。
全十巻の、波乱万丈に満ちた話。
たくさんの人に愛され、最近、愛蔵版として分厚い二冊の本にまとめられて、再びこの世界に送り出された、そんな物語。
時には辛い展開も――大人が読むにしたってあまりに酷な場面もある。
けれど、この物語はハッピーエンド。私にはそれが分かっているから。そして、世の中は楽しいことだけでは成り立たないから。それを知るための物語でもあるような気がするから。
私は、この物語を読み聞かせる。




