2020/10/13『魔法』『甘い』『メモ』
「すごい、魔法みたい!」
「魔法なんて、そんなたいしたものじゃないよ〜」
私の隣に立ち、慣れた手つきでりんご飴を作る母。
流行病のせいで様々なイベントがことごとく中止になったため、夏祭りに行けなかったことが悲しくて仕方のなかった私に、母は「今日はおうちでお祭りしよっか!」と言い出したのだ。
机の上には、チョコバナナや焼きそば、たこ焼きもある。これも、母がさっき作ってくれたものだ。
私の手には、ラムネの瓶が握られている。ついさっき開けたばかりで、まだまだ冷たい。一口飲み込めば、シュワシュワとした感覚とともに爽やかな甘さが広がった。
「よし、でーきたっ! 夏祭りの始まりでーす」
「やったー!」
時間は午後六時半。焼きそばやたこ焼きを、割り箸を使って食べた。器は、母が買ってきてくれたプラスチック容器だ。お祭りと同じものを使えば、気分はさらに上がる。
「美味しい! これ、どうやって作るの?」
「そうだね、レシピのメモがあるから、明日見せてあげよっか」
「やった!」
ペロリと夕食を食べ終えた私は、まずチョコバナナに手を伸ばした。
「あま〜い、しあわせ〜!」
「そう言ってもらえて嬉しいですなぁ、お客さん」
母は屋台のおじさんのものまねをしてみせた。それがなんだか面白くて、ついつい笑いがこぼれてしまう。
「ささ、こっちのりんご飴もいかがっすかー」
チョコバナナを食べ終わったところで、りんご飴の呼び声(もちろん母のものまね)が聞こえてきた。
「あ、りんご飴くださーい」
「あいよっ」
そんなやりとりをして、笑いあいながらりんご飴を食べて。
「さあ、お待ちかねの花火が始まりまーす!」
母に言われて、私は外に出た。
「今日、どこかで花火ってやってたっけ……?」
「やってないけど、花火は楽しめるよ。ほら!」
そう言って母が出したのは、手持ち花火。
「よりどりみどりの花火たちをお楽しみくださーい」
「やった!」
そして、二人きりの花火大会が始まったのだった。




