表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
345/430

2020/10/10『少女』『過去』『星』

 ――とうとう、やってきてしまった。

 そんな言葉が、心の奥底から浮かび上がる。

 目の前にあるのは、銀色の鉈。

 これで、お前の背にある翼を切れ――そんな先人たちの声が、聞こえた気がした。


 これは、今となっては遠い昔、私がまだ、大人になる前のこと。

 星の降る夜、私は『その人』に出会ったのだ。

 重い病にかかって、あまりに治療が辛くて、苦しくて、病院の屋上で一人空を見上げていたとき、『その人』は空から舞い降りてきた。

 その背にある、黒い翼で。

「あなたはだあれ?」

 少女だった私は、『その人』を怖がることなく問いかけた。

「わたしは、黒い翼の天使だよ。困ってる人や苦しんでいる人を見つけて、助けになってあげるのがお仕事なんだ。苦しんでいる子がいるなーって思って会いにきたんだ」

『その人』――黒い翼の天使の笑顔を見て、私は自分の病について告げた。闘病が辛くてたまらないことも。苦しくて仕方がないことも。

「……辛かったんだね。でも大丈夫。私がなんとかしてあげる」

 黒い翼の天使は私の頭を撫で、そのままなにかの呪文を唱えた。

 そのとき私は確かに実感したのだ。自分を苦しめる『なにか』が消え去っていくのを。重たかった体がふわりと軽くなるのを。

「……よし! これで治ったみたいだね。もう大丈夫だよ」

「ありがとう!」

「いいのいいの。これが仕事だもん。それじゃ」

 またね、と黒い翼の天使は言いたかったのだろう。

 けれど、私と黒い翼の天使との間に突如現れた銀の鉈が、それを許さなかった。

「――この鉈は」

 そう呟いた黒い翼の天使の声は、震えていた。

「そっか……あなたが」

 目の前にいる人は、私のことを真っ直ぐに見据えて、そして。

 自ら、背にある翼を切り落としたのだった。


 あの日、私は『その人』から翼をもらい、黒い翼の天使――黒翼(こくよく)の天使となった。

『その人』曰く、私は天使と人間のハーフである人の血を引いており、今までは『無意識に天使の力を行使していた状態』だったらしい。

 言われてみれば、私の周囲では皆病気が早く治っていて、どうして私だけずっと入院しなければならないのか、と思った覚えがある。まあ、『暴走』であったために自分の病は治せなかったのだろう。

「この翼がある間は、力は暴走しないよ」と『その人』は言った。

「でも、あなた、今……翼を」

「……これは定めだから。もう、覚悟してるの。それにね、この翼も、先代から受け継いだもの。私のものではない。これまでも、そして……これからも」

『その人』の気持ちが今、ようやく分かった。


 翼を失ったら、死ぬことになる。

 そう分かっていても、私はやっぱり、目の前の子に翼を切って渡すのだろう。

 ――そんなことを考えるよりも先に、私は翼を切り落とし、目の前の少女に差し出していた。

2021/11/07 1:19

誤字があったので修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ