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2020/10/08『教皇』『赤』『姫』

 両親に甘やかされて育った世間知らずのお姫様は、空想が大好き。今日も上等な紙に万年筆で、彼女はひとり、ありもしない物語を紡いでいました。

「……今日はここまでにしておこーっと!」

 今書いているのは、汚職をする教皇とそれを暴く巫女の物語。これは最近作り始めたお話なので、まだ巫女は出てきていません。教皇が汚職をしていることを書いただけでした。

 彼女の暮らす国にいる教皇は汚職などしない心優しい者でしたが、お姫様が大好きな本には意地汚い教皇ばかり(えが)かれていたので、彼女の中で「教皇=悪人」という式が出来上がっていたのでした。

 お姫様は誰にも、両親にさえこの趣味のことを話していませんでしたから、書き上げた小説をそっと引き出しに隠しました。そして、小説を読むために城内の図書館に向かいます。

「お姫様、どちらへ?」

 楽しげなお姫様に声をかけたのは、綺麗好きなことで有名な召使。

「これから図書館に行くのよ。お願いだから勝手に部屋を片付けないで頂戴ね。どこになにがあるのか分からなくなっちゃうから!」

 お姫様は圧をかけつつ釘を刺しました。というのも、この召使は机の中を確認することはないものの、お姫様の部屋にあるものを勝手に片づけてしまうのです。そんなことをされては、お姫様もたまったものではありません。

 しかし、お姫様の忠告もむなしく、召使は彼女の部屋に飛んでいくと片づけを始めてしまいました。そして、あろうことか、いつもなら手を付けない引き出しを開けてしまったのです。

「おや、これは……?」

 そこにあったのは、お姫様の書いた空想の物語。けれど、召使はそんなことなど知りません。さらに(たち)の悪いことに、お姫様は実在の教皇の名前を用いて小説を書いていたので、召使はこれを事実だと信じ込んでしまったのです。

 召使はあわてて、王様に報告をしに行きました。

「『この国の教皇が汚職をしている』という話を耳にしました」と。

「その言葉を信用してよいか?」

「ええ、確かな筋から得た話ですから」

 ()()()()()()()()()()()()()()。こんなに確かな筋はない、と召使は思ったのです。

「ううむ……分かった。調査してみる」

 その返事を聞いた召使は、王に頭を下げてお姫様に会いに行きました。

 理由は一つ。お姫様にとある問いをぶつけるためでした。

「どうしてあんなに大切な()()()を提出せずに隠していたのですか?」

「報告書? 何のことかしら」

「教皇の不正について書いた報告書ですよ。王様には事情をかいつまんでお話ししておきましたけど、あとでちゃんと提出してくださいね?」

 それを聞いた顔を真っ青にしました。

 まさか……まさか、自分の書いた小説を読まれたうえ、それを事実と勘違いして報告されたなんて!

「馬鹿! この大馬鹿者!」

 お姫様はそれだけ叫んで図書館を飛び出しました。そして公務室へととにかく急ぎます。

「お父様!」

「おお、どうしたんだい、そんなに顔を真っ赤にして」

 のんびりとしている父親に、お姫様は息を切らしながら必死に訴えました。

「あの召使の言った言葉は、教皇の汚職については、信じてはなりません! あれは、私がこっそり書いていた小説なのです! 私が引き出しに隠していたのを勝手に読んで、勝手に事実だと思い込んだのです!」

「なんだって!? ……詳しく聞かせておくれ」

 お姫様は、空想が大好きなこと、それを文字に起こして楽しんでいることなどを初めて明かしました。それを聞いた王様はカンカンに怒りました。もちろん、娘に対してではなく召使に対してです。

 人の引き出しを勝手に開けて中身を見た挙句、自分の勘違いを事実だと思い込んで報告してきただなんて、まあなんともひどい話です。

 あの綺麗好きな召使は「讒言をした罪」に問われ、即刻クビになってしまいました。

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