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2020/10/07『希望』『リアル』『科学』

「――お父さん、起きてよっ!」

 娘の甲高い声が鼓膜を突き破り、わたしは目を覚ます。

「おや、ごめんよ。ところで、どうしたんだい」

「えっとね、これ、プレゼント!」

 唐突に差し出されたのは、色とりどりの色鉛筆で描かれた絵。おとうさん、と歪んだ文字で書かれていることからして、わたしの似顔絵なのだろうが……まだ幼い娘の絵はかなり芸術的である。

「お誕生日、おめでとう!」

 頑張って堪えていたものが、両目から熱くあふれてくる。

「――ありがとう、ありがとうね」

 涙でぼやけてしまっているが、娘が満面の笑みを浮かべているのが分かる。照れ臭そうに頬を染めているのが想像できる。

「喜んでもらえてよかった! いつまでも、お父さんのこと大好きだからね! それじゃ、あたし台所行くから!」

 そう言って目の前からいなくなった娘を見届けて、わたしはつけていたゴーグルを取り外した。

「おかえりなさい。いかがでしたか?」

 近くにいる白衣姿の研究員に話しかけられ、ゴーグルを返しながら少しずつ話した。

「……本当に、ありがとうございます……病気で亡くした娘と、また話せたなんて、夢みたいです。あの声も表情も、本当にリアルで……現代の科学技術はすごいですね。もうこの世にいない人にも、会えるんですから」

 ……いけない、また涙がこぼれ出してしまう。

「私達の仕事は、皆様に生きる希望を与えることですから。そのためなら、なんでもやりますよ」

 そう言う研究員にハンカチを差し出されて、いよいよ涙が止められなくなった。

「ありがとう……ありがとう……」

 わたしはしばらくの間、幼子のようにずっと泣き続けていた。

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