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2020/10/02『毒』『旅』『魔王』

「はぁ……」

 玉座に深く腰掛けたわたしは、思わずため息をつく。

「……まったく、休む間なんてないな」

 目の前の机の上に積み上げられた書類を見ながら、ボソッと呟いた。

「ですが、魔王様にも休暇が必要だと思います」

 心配そうな表情の、そばで控えている側近の言葉に、頷いた。

「まったくもってその通りだ。しかし、業務を滞らせてはいけないし、なにより、この姿で出ていけば、皆が恐れてしまう……」

 近くの窓ガラスに反射している、自分の姿を眺めてみる。大きな二本の角、釣り上がった赤い目、鋭い牙に、紫色の皮膚。こんな姿では、誰もが怖がること間違いなしである。

「……そうです! 魔王様、十日間ほど旅に出られてはいかがでしょう? 業務であれば、わたくしが代わりに行いますよ。姿であれば、この城に『姿変えの薬』があります。それを飲めば、誰も貴方様が魔王であることに気がつきませんよ」

「なるほど……そういう手があったか」

 ということで、わたしはその薬を飲み、十日間の休みを取ることにした。


 まさか、『姿変えの薬』なんて存在せず毒を飲まされるなんて、そして、旅を勧めた側近以外の誰にも知られず死んでいくなんて、思いもせずに……。

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