2020/09/25『王国』『方言』『学校』
とある王国の、お城にて。
慌てた様子の執事が廊下を駆けまわり、王を探していた。
「はあ、はあ、はあ……王様はどこにいらっしゃるのだろう……公務を終えるといつの間にやらいなくなって、庭やキッチンや、様々な場所に足を運ばれるからなあ……まあ、だからこそ王様はたくさんの人に愛されるのですが……ああ、いらっしゃった!」
執事は庭師とともに花の世話をしている王を見つけると、「やっと見つけましたよ、王様!」と声をあげる。
「おや、そんなに息を切らして。どうしたんだい?」
「王子様の通われている学校から、連絡があったのですよ。『王子様が方言を使うものを馬鹿にしていじめている』と!」
――王は傲慢な態度を取ることなく、誰にでも親切で国民みんなのことを愛している。そのため、王は多くの人に愛され、尊敬される人物だ。そんな王は、国民のことを見て見識を広げてほしいということで、王子のことを国民と同じ学校に通わせていた。もちろん、学校には事情を説明したうえで、ほかの生徒と同じように扱うこと、彼が王子だとばれぬようにすることなどを約束している。
民を重んじる心優しい王が、息子の傲慢な態度に心を痛めないわけがない。
「あの子がそんな……分かった。あとで息子とはきちんと話をするよ」
王は真剣な顔になって、執事にそう告げた。
王子の帰宅後、王はわざと息子と傲慢な態度で接した。
ほかの人には普段通り優しい対応をする王に、息子は傷つき、疑問を抱き、考え、答えに自らたどり着き、自分の態度を改めることを決めた。
彼は知ったのだ。自分が下に見ていた者がどんな思いをしていたのか、自分の態度がどれだけ人を傷つけるものだったのかを。
王子は父親に、頭を下げた。そして、自分の決意を語った。
「お前が頭を下げるべきなのは、私ではない。お前が虐げた者に対してだ。誰のことも、いじめたりしてはいけないのだよ。誰も人をいじめる権利など持っていない。虐げられていい人もいない。……分かったかね?」
その言葉を聞いた時、王子は見た。
王の頬に、幾筋もの涙が伝っているのを。
――王は、息子のためとはいえ、本当はこんなことをしたくなかったのだ。
人を傷つけるのが大嫌いな王のことだ、息子を教育するためとはいえ、身や心を切られることのように辛かったのだ。
「――!」
王子は王に抱き着くと、自分も泣きながら謝罪の言葉を口にし続けた。
そんな彼の背を、王は優しく、そっと撫でていたという。




