2020/09/23『伝説』『毒』『悪魔』
――それは、不思議なことが数多く起こるこの街で語り継がれる、伝説。
この街に住む人ならば誰でも知っていて、そして信じている話。
『黒い翼を持つ天使が、私たち人間のことを守ってくれている』
けれどその伝説は半分正しくて、半分間違いだ。
「……おい、『穢れた天使』」
「その呼び方はやめてくれって、何回言ったらわかるかなあ……ちゃんと月菜って名前があるんだからね、トオヤ」
「お前には想像できないほど長い間、お前たちのことをこう呼んできたんだ。我慢しろ」
二人が言葉を交わしているのは、空の上。
白い翼と天使の輪を持ち、白いローブにも似た服を着た金髪碧眼の天使「トオヤ」と、黒い翼を持ち、黒いワンピースを身につけた黒髪黒目の少女「月菜」が、翼を使い空を飛びながら、言葉を交わしている。
この少女こそが、黒い翼を持つ天使――黒翼の天使だった。
「――穢れた天使、お前は、知っているのか? お前たちの歴史のことを」
「……知らない。私は人を助けるために力を使い、生きていくということだけしか」
「はあ……これは知っておかないといけないことだからな、特別に教えてやる」
呆れてため息をついたトオヤは、ゆっくりと語りだした。
昔、この世界には神がいたこと。神は生き物が進化し、栄えることを喜びとしていたこと。人間が生まれた時、自分に似ているため神は人間を気に入ったこと。しかし、人に悪の心があると知った時、神の心は引き裂かれ、善神と邪神の二人の神となったこと。邪神は人を滅ぼすために悪魔を生み出し、言葉という毒で人をそそのかせ、滅ぼそうとしたこと。善神はそれに対抗するために天使を生み出し、邪神へと戦いを挑んだこと。二人の神は争った結果、二人とも死んでしまったこと。けれど、悪魔や天使はずっと生まれ続けていること。
天使は人の幸せのため、悪魔を滅ぼすことを目的に生まれること。人に情を抱いてはいけない決まりであること。けれど人間に恋をした天使がいたこと。人と天使の間に生まれたのが、初代黒翼の天使であったこと。黒い翼を見て天使たちは「穢れた天使だ」と忌み嫌ったこと。今現在ここに存在している黒翼の天使は皆、この初代の血を引いていること……。
「お前たちの役目は、傷ついた人に手を差し伸べ、救うことだ。けれどわたしたち天使は違う。人に害を成す悪魔を滅ぼすために、生まれたのだ」
「そっか……もしトオヤたち天使が傷ついた人を救うために生まれたのなら、私たち黒翼の天使は、生まれた意味がなくなってしまうもんね。もしこの翼の色で嫌われようと、私は生まれてきてよかったって思ってるよ」
――それは、不思議なことが数多く起こるこの街で語り継がれる、伝説。
この街に住む人ならば誰でも知っていて、そして信じている話。
『黒い翼を持つ天使が、私たち人間のことを守ってくれている』
けれどその伝説は半分正しくて、半分間違いだ。
何故って、白い翼の天使も、私たち人間のことを守ってくれているのだから。




