2020/09/21『雪』『毒』『伝説』
裏社会の、有名な組織に、私はいる。
殺しも盗みも、誘拐も、決して厭わない。それが私のすべきことならば。
だから、表社会の人からしたら、私の手は汚れて見えるのだろうと思う。
何度も『罪』とされることを行って生きてきたから。
何度も返り血を浴びて、誰かを傷つけて、自分もほんの少しだけ、傷ついて、血を流して。
私の心はきっと、血の色に染まり切っていることだろうと思う。
「なあ、かわいいうちの子を殺したのは、あんただろ?」
敵組織のお偉いさんが、薄暗い裏路地を歩く私に声をかけてくる。
「『かわいいうちの子』? ……ああ、裏切り者の柊のことですか」
あの雪の日のことを、私はよく覚えている。
私の目の前で毒を飲み、血を吐いて息絶えた男のことも。
――あの男は、私の属する組織の構成員にして、裏切り者。つまり、敵組織から送られたスパイだった。
だから、殺さねばならなかった。外部に情報を漏らすわけにはいかなかったから。
「真っ白な雪を土壌にして、うちの子が吐いた血から綺麗な花が咲いたなんて噂が立ったからな」
「あ、その噂なら本当ですよ。どこか都市伝説じみてますけど、その花なら私の部屋でまだ綺麗に咲いてます」
「お前っ……! よくも柊のことを!」
はあ。思わずため息を一つ。
「ここで柊の仇でも取るつもりですか」
「最初からそのつもりでここに来ている」
相手の殺気が膨れ上がるのを感じながら。
「まあ、そうでしょうねぇ……やってみましょうか」
懐からそっと、使い慣れたナイフを取り出した。




