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2020/09/20『絶望』『赤』『魔術師』

「どうして……私はあの子を助けたかっただけなのに!」

 目の前に広がる絶望的な光景に、それを見ながら笑っている彼に、私は言葉をぶつけることしかできない。

「……どうして、って。これを望んだのは、あなたですよ?」

 彼は当たり前のことのように、そう告げる。

「私はあの子の死なんて望んでない! あの子の幸せが欲しかったの!」

 私は、あの子の笑顔が見たかったのに。真っ赤な血溜まりの中で事切れているあの子など、見たくなかったのに。なのに……どうしてあの子は、()()()()()()()()()()のだろう?

 彼は、私の問いには答えてくれない。ただ、自ら赤い水溜りに足を踏み入れ、一言、こう言うだけで。


「これが彼女の、『幸せ』の色ですよ」


 あの子がいじめられていて苦しんでいると知ったのが、一月前のこと。

 どうにかして助けてあげたい、幸せにしてあげたいと思ったとき、『魔術師』を自称する彼が現れた。

「あなたの願いを叶えてあげましょう」

 それだけの言葉を残して消えた彼のことは、すっかり忘れてしまっていた。

 けれど、目の前であの子が車に轢かれるのを見たとき、「あなたの願いは叶いましたよ」と言って彼がどこからともなく現れたとき、彼のことを思い出した。

 そして同時に、私は悟った。あの子を殺したのは彼なのだと。


「ねぇ、死が不幸だなんて、誰が決めたんです?」


 彼の声が、頭の中でこだまする。


「わたしには、なんでも分かるんですよ。例えば、彼女にとっての『幸せ』とかね。そして、わたしにとって物や人を操ることなんて簡単なことなんです。なんてったって、『魔術師』ですからねぇ。だからわたしは車の運転手を操ったんですよ。あなたの願いを――彼女の『幸せ』を叶えるために」

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