2020/09/19『少年』『空白』『正義』
「なぁ、少年」
「……だあれ、お兄さん」
どこまでも真っ白で広い空間の中、少年と青年が対峙している。
少年は知らない。ここがどこなのか、目の前にいる青年が誰なのか、何もかも。
「俺が何者なのか、君が誰なのか――そんなことは、どうでもいいんだよ、少年。そんなことよりも大事なのは、君が何をしたのか、俺が何をするのかさ」
「……ボクが、何をしたか?」
「そうだよ。……さて、少年。君は思い出せるかな、自分が何をしてしまったのかを」
少年は、必死に思い出そうとした。自分の過去を。自分が何をしたのかを。
けれど、頭の中には果てしなく続く空白だけしかないような、そんな感覚に少年は陥ってしまう。
何も、何も、思い出せない。
「……ひとつ、ヒントをあげようか」
うんうんと唸り続ける少年に、青年はこんなことを語りかけた。
「正義がいつでも正しいとは限らないんだよ」
「……それだけ?」
「ああ、俺の言えることはこれだけだ」
青年の言葉を、何度も繰り返し唱えてみる。けれど、少年はやはり、何も思い出せなかった。
「うーん……それだけ罪の意識がないってことか……悲しいことだけど……仕方がない、か」
青年は、少年に聞こえないように呟いて。
「――なあ、少年。君をいいところに連れて行ってあげよう」
優しく微笑んで、少年に告げた。
「いいところ、ってどこ?」
「そこがどこなのか――そんなことは、どうでもいいんだよ、少年。そんなことよりも大事なのは、そこがとってもいいところだってことなのさ」
「……たしかに、いいところなら、どこでもいいや」
さあ行こう、と青年は少年の手を引いて歩き出す。
その先に何があるのか、少年は知らない。




