2020/09/17『夕陽』『夜』『聖剣』
「はぁ〜」
夕陽が差し込む無人の教会に、間抜けな声が響き渡る。
「結局今日も、ふさわしい人は来なかったなぁ〜」
教会の片隅に、その場にふさわしいようには見えない、大きな岩が転がっている。
それに突き刺さっている、大きな剣。
しかも、普通のものではない。柄には太陽の煌めきを隠したかのように見える、真っ赤な宝石が飾られている。刃は銀色に輝き、月の光が宿っているかのよう。
その剣は、選ばれし者だけが手に取ることのできる聖剣だった。
その聖剣が、間抜けな声をあげているのである。
「全く……子どもたちが面白がってペタペタ触ってくるのはまだいいとして……勇者になっていい思いをしようと思ってる奴らばっかりが引き抜こうとしてくるのは、ちょ〜っと勘弁して欲しいんだ〜。こっちだって、勇者を選ぶの大変なんだって〜。いちいち『お前は勇者にふさわしい心を持っているか?』な〜んて頑固そうなフリして問いかけるのも疲れるんだわ……」
はぁ〜、と退屈そうなため息が教会に響く。
「……ま、今日はもう、誰も来ないだろうし……」
窓から見えるのは、だんだんと暗くなっていく空。
夜の訪れを感じ始めた聖剣は、考えることを放棄して眠りにつくことにした。




