2020/09/15『犯罪』『毒』『窓』
窓の向こうには、広い箱庭が広がっている。
誰が作るものよりも劣らない、美しい世界だ。
じょうろを片手に、窓を開ける。
「まずは、この美しい箱庭に祝福を」
細かくさらさらとした金粉をまんべんなく振りかける。箱庭に住むすべての生き物が幸せであるように。
「次に、弱ったものたちに救いの手を」
箱庭に住む生き物たちのうち、弱って今にも消えていきそうなものに、呪いをかける。再び立ち上がる力を得られるように。
「そして、祝福を独占するものに罰を」
箱庭に住む生き物たちのうち、ほかのものから幸福を奪うものには、ささやかな毒を仕掛けておく。自らが犯したことを悔い改めてもらうために。
「……さて、仕上げに雨を降らせようか」
呟いて、特別なうちわで風を送ると、箱庭の真上で、風はぐるぐるとひとりでに踊りだす。あとは一点にじょうろで水を注ぐだけ。
そうすれば、ほら。風が水を運んで箱庭に雨を降らせてくれる。
箱庭からさざ波のように響くのは、そこに住む生き物たちの感謝の言葉。
皆が幸せだと私も嬉しいよ、と声をかけてから、そっと窓を閉める。
「……この箱庭に住む生き物はみんな、いい子たちばかりだからね。他の箱庭だと、私たちを信じないもの、反乱を起こしてしまうもの、ほかにもたくさんの『罪』を犯す生き物が住んでいたりするというから」
特に『地球』とかいうまん丸の世界を作ったところなんかは、神を信じるものが年々減っているうえに、特別なうちわで送った風の方向を無理やり変えられたり、生き物でない『なにか』を作り出されていたりと、『犯罪』がトップクラスで多いらしい。……まあ、でも噂によるとそこの神は「いいじゃん、面白くって。私が思いつかなかったようなことをやってのけるから、毎日驚きの連続だよ」なんて言って罰を与えていないらしいというから、これからもその世界では『犯罪』が増え続けるんだろう。きっと。
神によって、創り上げる世界は様々だ。一つぐらいは、そんな世界があってもいいのかもしれない。




