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2020/09/09『雪』『紅茶』『リアル』
こぽこぽこぽ……。
水筒からカップに、温かい紅茶を注ぐ。白い湯気が綿のように立ち昇る。
ふわりひらり、空から舞い降りてくる雪が、紅茶に落ちて、じゅっ、と溶けた。
こくり、と温かな液体を飲み込むと、自然と優しいため息が漏れる。冷え切った体に、紅茶がじんわりと染み渡るのが分かった。
「なぁんか、すごいなぁ……めっちゃリアルじゃん」
思わず、呟いていた。
「これが仮想世界だとは思えないなぁ……」
そう。ここは、現実世界ではない。
今の実際の季節は夏。雪なんて当然降るわけがない。普通なら暑くて仕方がないだろうし、温かな紅茶よりも冷たいジュースの方が嬉しい時期だ。
けれど今、わたしの体は冷え切っているし、紅茶は温かくて、降り積もる雪は冷たいのだ。
どういう技術かは知らないが、とんでもないことができるようになったんだなぁ、とだけ思う。
カップの紅茶を飲み干したわたしは、目を閉じて大声で「ログアウト」と叫んだ。
こうすれば現実世界に戻れると言われていたから。




