2020/08/31『科学』『天邪鬼』『紅茶』
リビングの卓上にプリントやシャーペン、ルーズリーフ、さらに資料となる本を並べ、パソコンと向かい合う大学生。彼女は紅茶を飲みながら、課題に取り組んでいた。
「期末レポートと期末テストの両方で評価されるってなんなの、これ……いや、そんなことはシラバス見て知った上で取ってるんだし、今はとにかくレポートをやるっきゃないんだから!」
プリントや本を見比べながら、ときにはルーズリーフに考えたことを書き出して頭を整理しながら、パソコンに文字を打ち込んでいく。
「――お姉ちゃん、なにしてるの」
そこにやってきたのは、彼女の妹。どうでもよさそうな顔をしながら、そんな問いを投げかけて、パソコンの画面を覗き込む。
パソコンに打ち込まれている文章――レポートのタイトルは「科学的実在論論争に関して」。
「うわ、科学……なんか難しそうなのやってるねぇ」
「でもこれ、科学的知識を問われてるわけじゃないからね? どっちかっていうと多分、哲学寄りだよ?」
「哲学も難しそー。っていうか、どこに哲学要素があるの、これ?」
「だってこれ、科学哲学って科目だからね。そりゃあ哲学要素ないと困るでしょ」
「知らんわそんなの」
ぽんぽんと軽やかに進む会話。大学生が妹に目線を向けると、彼女は汗だらけの顔に不機嫌そうな表情を浮かべていた。
「ねえ、汗すごいよ。なんか飲み物飲む?」
「いらない」
妹はそう主張したが、大学生は華麗に無視して台所に行き、妹が大好きなアイスコーヒーを作って戻ってきた。
「はい、これ」
「……いらないって言ったよね」
「ほんとは欲しいんでしょ、天邪鬼さん」
トイレ行ってこよーっと。わざとそう口に出し、大学生はリビングを離れる。
一人残された妹は、不機嫌そうな顔をしつつも、アイスコーヒーを一気に飲み干した。
「うわ、濃っ。相変わらずお姉ちゃん、濃いのが好きなんだろうな」
私の好みは薄いコーヒーなんだけど。そう文句を言いながらも、妹は嬉しそうな笑みを浮かべていた。




