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2020/08/24『病』『黄色』『暮らし』

 黄色いお月様が、彼女を明るく照らしている。

「病気みたいなもので例えられがちだけど……病気では、ないんだよ」

 彼女はそっと、一つため息をついた。

「それは、掟」

 突然鞄の中からカッターを取り出し、彼女は左手の人指し指に傷をつける。

 ぷくりと浮かび上がった赤いものが地面に落ちる前に、傷にそっと口づけをして、言葉をつづけた。

「この血に染み付いた、古い約束」

 色づきの悪い唇が、血の色で鮮やかに染まっていく。

「遠い昔……ご先祖様が、月に住む者と結ばれた日からずっと、私たちは人間の血と、月に住む者の血をひいている」

 だからね、と彼女は微笑んだ。

「満月を見れないんだ。見てしまったら、私は月に『帰る』ことになるから。心を月に奪われて、人ならぬものになってしまうから」

 他にも、と言いながら、彼女は近くの建物の影に隠れる。月の光を避けるようにして。

「長時間、欠けている月を眺めたり、月の光を浴びたりするのもダメ。満月を見たくなってしまうから」

 さっき傷をつけた指に、絆創膏をぺたりと貼りながら、歌うようにして、彼女は続ける。

「私たち、月に住む者の血を引く一族は、月を恐れながら暮らしている。夜は雨戸を全て閉めて、外を見られないようにする。もちろん、外出なんてもってのほか。出かけるならば、出来るだけ短時間で済ませるようにしているんだ」

 彼女は建物の影から出てくると、そっと、欠けた月を見上げ、呟いた。

「そんなに恐れる必要は、ないと思うんだけど」


 ――彼女は既に、月に呼ばれてしまっているのかもしれない。

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