2020/08/21『黒』『机』『ガラス』
真っ黒な机に並ぶ、ガラス製の道具たち。
ここは、地下室にある、どこか隠れ家じみた実験室。入れるのは、この場所を作った二人の科学者だけ。
二人の科学者――通称『天使』と『悪魔』が、毎日ここで言葉を交わしながら実験をしている。
「ねえ『悪魔』、覚えているかい、あの日のこと」
白髪碧眼の青年が、黒髪黒目の青年に声をかける。
「ん? 突然どうした、『天使』」
「いや……あの日、僕は天使ではなくなったんだな、と思ったんだよ」
それを聞いた『悪魔』は、本当は『天使』の言いたいことが分かっているにもかかわらず、わざと問いかけた。
「ほう、その心は?」
『天使』の整った顔立ちがゆがみ、苦しげな表情になっていく。
「……神が決めたルールに、反抗しようとしているからさ」
『天使』は、日本人であるにもかかわらず白い髪と碧い目を持って生まれた。
そのせいでいじめられることは多々あったが、誰かをいじめることも、八つ当たりすることもなく、立派な青年に育った。
自分を守ってくれる母親と、いつでも仲良くしてくれる『悪魔』がいたからだ。
だから、誰よりも大切な母親が死んだとき、心が壊れかけたのだ。
「……母さんは、戻ってきてくれる。そうだよな、『悪魔』?」
「ごめんな、『天使』……頷いてやりたいけど、おばさんは戻ってこないよ」
「どうして、なんで戻ってこないんだよ……」
そんな時、『天使』は閃いてしまった。
「戻ってこないなら……作れないのかな」
「……は?」
「母さんと同じ人を……ここに、作り出せないのかな」
「お前……!」
最初は、『悪魔』は『天使』を止めるつもりだった。
けれど、今にも壊れそうな彼を見ていると、首を横に振れなかった。
「……一緒に、おばさんを呼び戻そうか」
「へっ?」
「俺たちは科学者だろ? おばさんと同じ人を、作れるかもしれないぞ」
「……そうだな、そうだよな!」
こうして二人は、人には言えないような実験を、始めることとなった。
「……あのなぁ、『天使』。もしあの時お前が天使でなくなったんだとしたら、それはお前のせいじゃない。お前を唆した俺、悪魔のせいだ。だから、気にすんなよ」
「……そうかな、『悪魔』」
「そうだよ」
神が与えた『終わり』を覆すための二人の実験は、まだまだ終わらない。
2020/08/21 22:14
誤字があったので訂正しました。




