2020/08/16『毒』『戸惑い』『方言』
都会だと、方言を喋っている地方の子は、それが個性になったりいじめのもとになったりする。
でも、地方だと逆だ。
標準語を喋る都会人は、それが個性になったり、あるいは……いじめの原因になったりする。
方言が喋れない。
それだけで「これだから都会っ子は」と嗤われる。
それがかつての僕にとっては、辛かったんだ。
都会から地方に引っ越してきた、僕にとっては。
今考えるとくだらない理由だけど、当時はこれが原因で、死にたいとすら思っていた。
だからあの日、見知らぬ誰かに「これをあげるよ」と小包を渡された時、すんなりと受け取った。
「これは毒だからね、飲んじゃダメだよ」
その時は、どうして子供に毒を渡すのかなんて疑問も、そのことに対する戸惑いも、何も抱かなかった。
もちろん、その毒は飲んだよ。
でも、死ななかった。
その日を境に、何故か少しずつ、方言が喋れるようになって、みんなと打ち解けられて、仲良くなって。
死にたいなんて、思わなくなっていたんだ。
今では立派な大人になって、都会と地方の企業の橋渡しをしているよ。
標準語と方言を場面によって使い分けて、言葉を個性にして、人と人とを繋いでいる。




