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2020/08/14『少女』『しょっぱい』『都市』
「いっ……!」
ソファーに腰掛けて針仕事をしていた少女が、指を押さえる。
ぷくり、指先に現れた朱を舐めると、少ししょっぱくて、鉄の味がした。
「不器用なおねーちゃんに縫い物なんて無理だって」
近くの机に模造紙を広げ、なにやら文字を書いていた少年がぼそりと呟く。
「これで自分の指を刺すの、十回目だよ」
「うるさいわね、夏休みの宿題なんだから仕方ないでしょ。私の怪我を数えるより、自分の自由研究を進めたらどうなの。明日登校日なんでしょう?」
姉の愚痴に「分かってるよ」と答えて、少年は再び模造紙に向かい合う。『世界都市 人口と環境の比較』と書かれたそれに、調べたことを記していく――。
「――ああっ、間違えた!」
「なに悲痛な声出してんのよ。上から白い紙貼ればいいでしょう?」
「そうだけどさぁ、ショックじゃん」
あーあ、と途方に暮れる弟を生温かい目で見つめてから、再び少女は縫い物に勤しむ。
「……痛っ!」
「十一回目だね、お姉ちゃん」
「うるさい!」




