2020/07/30『冷たい』『揺らぎ』『科学』
「――すごい、先輩方がとってもキラキラしてるなあ、ここ……」
「設備も充実してるんだ……いいなあ」
「すごい、こんなに図書館の蔵書数が多いの?!」
「この高校に行きたい!」
その高校に一目ぼれして、志望校にしようと決めたのは一年前、中学二年生の時のことだった。
けれど、三年生になった今、その心が少し揺らいでいる。何故なら……。
「うーん……偏差値が届かない……」
そう、どう考えてもその高校のレベルが高すぎて、自分に見合っていないのだ。
自分が特に苦手なのは理科、その中でも科学だ。何が分からないのかすら分からないという、一番恐ろしい事態になってしまっている。理科の成績が少しでも改善されればまだマシなんだろうけど……でも、届く気がしない。
「……やっぱりここは、諦めようかなあ」
お母さんに向かって、ポロリとそうこぼしてみた。
すると、返ってきたのは。
「ふーん、そんなもんなんだ。あんたの『行きたい』っていう気持ちは。簡単に諦められちゃうような、弱い気持ちだったんだね」
そんな、冷たい言葉だった。
「諦めたくないよ。でも届かないから諦めざるを得ないんだよ」
「そんなの努力してから言いなさいよ。あんたのその言葉は、ただの逃げだよ。努力をしていないだけ。分かってると思うけど、報われない努力は、努力なんかじゃないからね」
――逃げ、か。
そっかそっか、お母さんは知らないんだ。
模試で毎回この高校の名前を書いて、いつも合格圏にすら入らないこの気持ちを。
教科書の練習問題を何回解いても正解できない、この悔しさを。
成長できないんだ、ここが限界なんだと突き付けられるようなこの気持ちを。
届かないなら諦めるしかないと、そう受け入れるしかないこの思いを。
全部全部、知らないんだ。
「――悔しいんなら、それをばねにして努力してみればいいんじゃないの。こんなこと言う母さんを見返してみなさいよ。自分で決めたことからは逃げないことを、あんたの努力が努力であることを母さんに見せてよ」
何をどう考えたのかは知らないけれど、お母さんはそんなことを言ってくる。
こっちの気持ちを知りもしないで。




