2020/07/28『現実』『憤怒』『嫉妬』
「自分本位のやつなんか、社会から必要とされないのさ。ボランティアの人でさえ内心では『この人いらないのになぁ』とか思ってるぞ、きっと」
目の前の同居人は、お酒を飲んで酔っているというのに、真剣かつ重い声でそう言ってきた。
口に含んだ日本酒が、一気にまずくなる。仕方がないから、味わいもせずに飲みこんだ。
「――はは、確かにそうかも」
無理矢理、へらへらと笑ってやり過ごす。
でも。
知っている。自分が自分勝手なことくらい。
社会の誰にも必要とされていないことくらい。
要らないからと捨てられていく未来が待っていることくらい。
でも、それでも。
そんな現実を他人に突き付けられると、やっぱり憤怒してしまう。さすがに顔には出さないけれど、心の中で。
多分これも『思い通りに動いてはいけない』と言われたように感じるから、なのだろう。
やりたいことがやれないと思ってしまうから。これもまた、自分本位な理由だ。
――救いのないことだこと。
そっと声には出さずに呟いて、煙草ケースを取り出す。
「外出てくるよ」
同居人に断って部屋を出ると、「早く戻って来いよ」なんてのんきな声が返ってくる。さっきの真剣さはどこへやら、という感じだ。
玄関で煙草ケースの中から煙草を一本取り出し、くわえる。ケースは下駄箱の上に置いていく。その代わり、そこにあったマッチ箱を手に取り、ドアを開けた。
月が見えない夜。小雨の降る中、傘もささずに、星のない空を見上げる。
雨の中だから不安だったが、マッチは問題なく燃えてくれた。火を起こす時の音が、手元の灯りが、心をそっと落ち着けてくれる。
煙草に火をつけ、マッチは振って消火する。火の消えた棒は近くに投げ捨てた。
深く吸って、白煙を吹き出す。
――同居人は、『自分本位』からほど遠い人物だ。
自己犠牲の精神があるわけではない。が、我を突き通そうとする人でもない。
自分の意志はしっかり持ち、でも、他者のことを思いやり、考えて、柔軟な対応をできる人。
嫌いではない。尊敬もしている。でも、同居人に対して負の感情が湧かないと言ったら嘘になる。
多分、これは嫉妬だろう、と煙を吐き出しながら思った。
同居人みたいになりたいけれど、なれないから。
煙を吸って、ゆっくり吐いて。
過去に何度も繰り返した問いを、もう一度投げかけてみる。
『……いつまで自分は、自分本位な人間のままなのだろう』
答えは明確だ。
『変わろうと決心し、その努力をするまで』
その努力を怠るから、変われないのに。
これでは、自ら捨てられることを望んでいるようなものなのに。
吸殻を靴で踏みつぶし、消火。
拾い上げて、家の中に入り、ごみばこの中に放り込んだ。
――自分がこんな風に捨てられるのは、どれくらい先のことだろう。
そんなことを、ぼんやりと考えて。
2020/07/28 23:50
重複表現を一つ見つけたので修正しました。




