2020/07/25『暴力』『病』『川』
そっと見上げると、不思議で優しい青が、夕方が終わってしまったのに夜になりきれない空を包んでいるのが見えた。
そこに浮かぶ雲は、いつだかに水族館で見たクラゲに似ている気がした。……いや、水に入れたせいで白くヒビの入った氷に近いような気もする。
まあ、どちらでもいいや、と呟いた。道ゆく人が怪しがってこちらを見た、かもしれないが、そんなのはどうでもいい。独り言が激しいのはいつものことだ。
川沿いの道を、歩く、歩く。
ふと水面を覗いてみると、緩やかに広がる波紋があった。魚たちが作り上げた、小さくて儚い芸術。
綺麗だね、と声をかけてパンくずを放ってやれば、魚たちはバシャバシャと晩ご飯の取り合いを始める。
可愛らしいような、ちょっとだけ暴力的なような。そんな光景をしばらく眺めていたが、ずっとそうしていても仕方がないから、また歩き始めた。
空は、夜の顔を見せ始めている。青は紺色に移り変わりつつあった。これが深い紺色になる前に、家にたどり着きたいところである。
――夜は、好きだけど嫌いだ。
深い紺色は、黒に限りなく近いあの色は好きだけど、その中で淡くベージュ色に光る月も好きだけど、きらびやかに光る金銀の星だって好きだけど。
でも、その闇の中でぼんやりと浮かび上がる、病的なまでに白い自分の体が嫌だった。
夜道を歩いていると、自分は夜に歓迎されていないと感じる。私だけ、仲間外れみたいに見える。
ぼやっと白く悪目立ちする自分は、まるで、幽霊みたいで。生きていないように思えて。
だから、嫌いだ。
好きだけど、嫌いだ。
……早く家に帰ろう。
黒に限りなく近い、深い紺色が空を覆い尽くす前に。
私が「幽霊」になってしまう前に。




