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2020/07/23『黄色』『天邪鬼』『科学』

 彼女はいつも「偽物の魔女だ」と言われてきた。

 例えば「遠くにいる人と会って話したい、魔法でなんとかしてくれ」と言えば、「ふん、そんなのテレビ電話でもすりゃいいじゃないか」と却下され。

「空を飛んで遠くへ行きたい、魔法でなんとかしてくれ」と言えば、「ふん、そんなの飛行機にのりゃ解決だろ」と却下され。

 とにかく「魔法を使ってくれ」という依頼に対して、なんでも、誰もが使えるような科学技術で応えるのだ。

 これでは「あいつは魔法が使えないからそんなことを言うんだ」「偽物の魔女だ」と言われてもおかしくはないだろう。

 けれど、彼女が魔法を使わないのには、理由がある。

 ――彼女は、天邪鬼な性格なのだ。

「魔法を使ってくれ」と言われたら「魔法でない手段で解決してしまおう」と思ってしまうのが、この魔女の特徴だった。

 けれど、そんなことは誰も知らない。

 だから彼女は、偽物扱いをされ続ける。


 その状況が一変したのは、国中にとある病が流行った時のこと。

 その病は、薬もなく、治療法もなく、罹ったら悶えながら死を待つしかないようなものだった。

 街の人々が苦しみあえぎ、倒れていくのを見た魔女は、一つため息をついて街の中心地へと出かけて行く。

 そして。

「まったくもう、仕方がないね、人間たち。今回は特別大サービスなんだから」

 大声で、そう文句を言った後、そっと目を閉じて、なにやら呪文を唱える。

 その次の瞬間、街中に黄色の――いや、金色の光が、さらさらと空から降りだした。

 光を浴びた人々は自分の中に巣くっていた苦しみが消えていくのを感じ、喜びの声をあげる。

「……もう、ほんっとに特別だからね。みんながもう決してこの病にかからないようにしてやるよ」

 そうぼやきながら魔女が手を一振りすれば、さわやかさと温かさが同居する風が吹き渡る。

「こう見えてあたしゃ、この街のみんなが大好きだからさ。あんたたちが苦しむとこなんか見たくないんだ。もう病気なんてしないでくれよ、人間たち」

 そう言い残して彼女は、ふっとその場から姿を消した。瞬間移動の魔法だった。


 それ以降、彼女のことを「偽物の魔女」と呼ぶ人はいなくなったとさ。

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