2020/07/22『暮らし』『氷河』『夕陽』
「やっほーう、元気?」
大晦日の日、突然家にやってきたのは、幼馴染の魔女だった。
「びっくりした……元気でやってるよ。そっちこそどう? どうしたのさ、急に?」
「見ての通り元気だよ。で、ここに来たのは、君を旅に誘おうと思ってね」
「旅?」
首を傾げると、彼女は楽しそうに頷く。
あ、これは何か面白いことを企んでいる顔だな?
「決して溶けない魔法の氷河に乗って、世界を一周する旅だよ。どう?」
「行く!」
考える前に、そう言っていた。
幼馴染の魔女と一緒に、魔法の氷河に乗って世界一周旅行。大人になって消えてしまっていた好奇心が、むくむくと湧いてくるじゃないか。
「君ならそういうと思ったよ! 早速行こう、準備はしてあるから、君は手ぶらで大丈夫だよ」
彼女はそう言うなり、魔法円を描いて呪文を唱える。久々に見たけど、見慣れているから分かる。これは、瞬間移動の魔法だ。
目の前が明るく、白くなり、そして――。
――気がつくと、そこは氷のかけらの上だった。しかも、予想よりもかなりでかい。家が一軒建っていて、なおかつその周りは走り回れるくらいに広い。
「おいおい……この氷河、どうなってるんだよ……」
「だから魔法の氷河だって言ったでしょ? 家一軒建ってるくらい、おかしくともなんともないよ。中入ってみなって、寒くも暑くもない、心地いい空間が待ってるよ?」
海の上に浮かぶ氷河の上の、家。なんともおかしな感じがするが、中に入ってみると、とてつもなく過ごしやすい空間だった。暖炉では薪が燃えていてパチパチと音を立てている。そこで料理もできるらしく、近くにはフライパンや鍋も置いてある。どういう仕組みかは分からないが、温かいお湯がはられた風呂や、ちゃんと水が流れるトイレもあった。
「……さっすが、魔女だな……」
「びっくりしたでしょ? この家で旅をするんだよ」
窓の外からは、夕陽が見えた。少しずつ、海の向こうに太陽が沈んでいく。
「しばらくはここに留まってるけど、日付が超えたら旅を本格的にスタートさせるつもりだよ」
「なるほど、年の始まりとともに旅も始まるわけか」
「年越しを祝う花火が見える場所に止めておいたからね、きっと綺麗だよ」
彼女の声を聞きながら、海上の旅と暮らしを想像する。……いや、いまいち想像しきれないけれど、でも、きっと彼女と一緒なら楽しいだろう。
だって、今までだって、彼女と一緒に過ごして楽しくなかった日なんてないのだから。




