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2020/07/12『戸惑い』『勇者』『神話』
――こんなはずでは、なかったのに。
勇者は、戸惑いながらそう思った。
誰かを守るためにこの剣を振るってきたのに。
なのに、どうして。
多分、彼は世間知らずだったのだ。
神話を真実だと信じ、教会に通う時代は終わっていたのだ。
それを知らなかったがために騙された。
教会のふりをした何者か達に。
悪を倒せと言われ、彼は剣を振るった。
けれど今の時代、それは許されないことだった。
勇者はただの無差別殺人犯に仕立て上げられた。
逮捕され、牢屋に入れられ、死刑判決が下された。
彼は死ぬ瞬間に呟いたという。
――「こんなはずでは、なかったのに」と。




