2020/07/10『時間』『漫画』『川』
気がつくと「ボク」は、真っ白な世界で一人きり、佇んでいた。
――ここはどこ?
呟きたくても声は出ないし、動きたくても指一本動かない。
なんだこれ。金縛りにあっているみたいじゃないか。
心の中でそう毒づいていると、ふと、目の前に川があることに気がついた。
……さっきまで、なかったのに?
その川は流れることなく、水は停滞している。けれど、よどんでいない。せせらぎの音も聞こえる。
そしていつの間にか、川には橋がかけられていた。
数秒前までは存在していなかったもの。石造りの、しっかりしていそうなものだった。
その後も、突然「モノ」が現れる現象は続いた。
花、草、木々、風、雲、太陽、ほかにもたくさん……。
それらは音を立ててはいるけれど、決して動かない。
葉擦れの音がするのに揺れない木々も、必死に風に吹かれる「フリ」をしようとしている草花も。
そして、何もできない「ボク」も。
――まるで、時間が止まっているみたいじゃないか。
思わず、心の中で吐き捨てた。
「ボク」や「モノ」は、動くことなく生き続ける。
この、時間のないモノクロの世界で。
「……コマが変わることで時間の流れを表すのなら、この一コマの中では時間は動かないってことなのかな。この小さな時間のない世界の中で、この子たちは一生、死ぬ事も出来ずにここで生き続けるのかな」
一人の漫画家が、今かきあげたばかりのページを見ながら、呟いた。
「この子たちが動いていると思っているのは、きっと傍観者だけなんだろうな。そして自分自身もきっと、そのうちの一人」




