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2020/07/08『星』『緑』『机』

 昔々、あるところに、とても広い森がありました。

 その森には秋になると葉を落とす木ばかりが植えられていましたが、その中にポツンと一つだけ、年がら年中ずーっと深い緑色の葉をつける木がありました。

 その木は自分が仲間外れであることを知っていましたが、それが不幸だと思ったことは一度もありませんでした。なぜって、他の木が葉を落として眠ってしまっている間も自分は起きていて、青い空を点々と埋め尽くす銀色のいわし雲や、寒い日にそっと降り注ぐ綿のような雪を目にすることができるのですから。

「ああ、なんて僕は幸せものなんだろう!」

 心の中でそう叫びながら、その木は森の中に一本で立ち続けていました。

 けれど、転機は急に訪れるものです。

 ある冬の日、仲間外れの木は、森へとやってきた人間に切られてしまったのです。

 いつもどこか遠い場所の物語を教えてくれた小鳥や、お日様の日を浴びて嬉しそうに歌っていた花、その歌に合わせて楽しげに踊っていた風たちとはもう、お別れです。それが悲しくて仕方がなくて、木は心が張り裂けてしまいそうな気がしました。

 その木が連れて行かれたのは、とある一軒の家でした。木を切った大きな人間は、わらわらとやってきた小さな人間に向かってこう言いました。

「立派な木を手に入れてきたぞ。さあ、飾り付けをしようじゃないか」

 小さな人間たちは甲高い声をあげて喜び、切られた木にたくさんの飾りをつけてあげました。プレゼントの包みの形をしたもの、キャンディでできた小さな杖、朝露のように丸く艶やかに輝くもの……木のてっぺんには、金色の星が飾られました。

「夜空の星には敵わないけれど、なんで素敵で綺麗な星もどきなんだろう。僕にはもったいないくらいだなぁ。小鳥さんやお花さん、風さんとはお別れしてしまったけれど、ここも悪くはない」

 心の中で、木は思いました。

 飾り付けが終わると、小さな人間たちは歌って踊って、はしゃぎました。大きな人間は木の根元に大小様々なプレゼントの包みを置きました。誰も彼もが、みんな笑っています。木も幸せな気持ちになって人間たちを眺めていました。

 こうして、楽しい日々は過ぎていきました。

 しかし、またしても変化は訪れます。

 ある日、木からすべての飾り付けが外されて、周りの枝はすっかり取り払われてしまったのです。

「僕、どうなっちゃうんだろう……」

 そんな不安げな声も人間には聞こえません。木は切られて加工され、小さな人間の遊び道具にされました。お人形のための机や椅子になったのです。

 昼間は小さな人間たちがたくさん自分のことを使ってくれましたし、人間が寝静まった夜は、人形たちが話し相手になってくれましたので、木は寂しい思いをせずにすみました。そして、楽しい毎日を過ごすことができたのです。

 ただ、一つだけ悲しいことがあるとするならば、木を加工する時に取り払われた枝や葉が燃やされてしまったことでしょう。

「ああ、僕の自慢の葉っぱが!」

 暖炉の薪がわりにされた葉や枝を見ることしかできなかった木は、そう言って嘆き、泣き叫んでいたそうですよ。

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