2020/07/05『傲慢』『太陽』『戸惑い』
村の奴らは、太陽と月を神様だと崇めている。
太陽と月は神様の目。一日中ずっと見守るのは大変だから、一日の半分を左目である太陽を使って、もう半分を右目の月を使って見ることによって、片目を常に休ませながら、地上を常に観察できるようにしている。時間によって位置が変わるのは、神様が見落としのないように様々な場所から地上を眺めているから。曇りや雨、月の出ない日は、神様が眠っている日。だから光という名の守護もなく、不幸が降りかかりやすいのだと、そう言われている。
……ンな馬鹿な。
太陽も月も、地上を照らすだけで、オレたちを守ったりはしない。絶対に。
雨の日だっていいことはあるし、晴れの日にも不幸は訪れる。そんなの、当たり前だ。
なのに、村の奴らは、オレのことを『傲慢な男だ』と言って嫌った。
『神様を侮辱するようなことを言うなんて』
『思い上がったことを言っていると、いつか後悔するからな』
『神様への礼を欠くなんて、酷い奴だ』
そんな罵りの言葉を、常に投げかけられた。
……そんなオレは、ある日ついに、村を追い出されることとなった。
必要最低限の荷物と、数日分の食料を持って、見知らぬ土地へと踏み出した。
「……ふん、神でもないものを神だと勝手に崇めているだけだろうに」
『全くもって、その通りだよ』
突然聞こえてきた声に、戸惑いが隠せない。
「誰だ!?」
『君を照らしているわたしだよ。太陽さ。神様の目じゃないけど、ね』
「た、太陽って喋れるのかよ……」
流石に見つめると目がやられるので、声のする方は振り返れなかった。けれど、衝撃の事実に思わず頽れてしまう。太陽の声を聞くなんて、初めてだ。
『喋れるよ。ただ、聞こえない人がほとんどなだけで。不思議だねえ、君もさっきまではわたしの声に気付かなかったみたいだけど、どうして今はこうやって話ができるのかな』
「そんなん、オレが知りたいわ……。とりあえず、お前さんが神様じゃないってことがはっきりしてスッキリしたわ。なあ、太陽や月を神と崇めない村を知らないか?」
『ん? それならこの道をまっすぐ進んで、突き当たりの分かれ道を右に行くとあるよ。ただ、あそこは木を神様と崇めているけどね』
「はぁ? ……じゃあ、自然を神と崇めない村は?」
『歩いて行ける距離にはないねぇ』
「まじかよ」
太陽と友達のように喋りながら、道を歩く。
「……しょうがねえなぁ、これから放浪の旅でもしてみるかな。んで、過ごしやすい村を探すんだ』
『理想郷探しかい? 楽しそうだねぇ。わたしも仲間に入れてくれないかい? 昼間の話し相手くらいにはなるよ』
旅の仲間が太陽!?
なんだそりゃ……楽しそうじゃねえか!
「おっ、それは助かる! それじゃよろしく、太陽」
――こうして、俺の理想郷探しは幕を開けることとなったのだった。




