2020/07/04『騎士』『童話』『占い』
幼い頃、好んで読んでいた童話があった。
話の内容は至ってシンプル。悪い魔法使いに捕われたお姫様を騎士が助けに行く、というものだ。
けれど、私は目を輝かせながら見つめていたものだった。悪い魔法使いと戦う騎士を。
こんなふうに、かっこよく誰かを助ける人になれたらいいのに、と思いながら。
……そんなわけで、幼い頃の将来の夢は、騎士だった。
「あのね、お姫様を守る人になりたいの!」
当時は騎士なんて言葉を知らなかったからそう言っていたのだが、そのおかげで「無理よ、そんなの」と言われることはなかった。童話には、知恵でお姫様を守る侍女だって存在するのだから。
「素敵ねえ。きっと大切な人を守れる、立派な人になれるわよ」
幼稚園の先生や両親は、そう言って私の頭を撫でてくれた。
家の近くに咲く花を摘み、花びらをちぎりながら「夢が叶う、叶わない、叶う……」なんて言って、そんなお遊びのような占いもよくしたものだった。運が良かったのか、毎回占い結果は「夢が叶う」だったものだから、騎士になれる日をずっと楽しみにしていた。
……けれど、いつの間にか、その夢は消えていた。
多分、気付いてしまったのだろう。お姫様なんて存在していなくて、だから騎士もいるわけがなくて。そもそも、女性が騎士になれるのかどうかもよく分からなくて。
だから、夢は自然消滅してしまったのだった。
自分でも、気付かないうちに。
だから、その夢が叶ったのだと分かったとき、思わず息を飲んでしまった。
――数日前、友人が事故に遭いかけた。その時私は、彼女の危機の中に飛び込み、大切な人を守った。
その時は無意識のうちに体が動いていたから、ただ彼女が無事であったことに安堵するだけだった。
けれど、今日、友人からこんなメールが届いて。
『あの時は、助けてくれてありがとう!
なんか、騎士みたいですごくカッコ良かった!』
彼女の言葉に、気付かされたのだ。
幼少期の願いが叶ったことに。




