2020/07/03『方言』『太陽』『雪』
まさか、普段は小説を書いているおれが、エッセイを書くことになるとは思わなかった。
けれどまあ、面白そうだったし、こうしてあっさりと承諾したわけなのだけど。
「日頃思っていることを、気楽に書いてもらえれば」と言っていたし、ついこの間の出来事について書いてみようと思う。
こんなことを書いたら「そんなの当たり前だろう?」と笑われるかもしれないが、おれは生まれも育ちも、何なら今の住居もニュージーランドという、生粋の「Kiwi(ニュージーランド人)」だ。
おれが日本語に興味を持っていて、その勉強のために日本に留学したことがあることは、読者のみんなはもう知っているだろう。そのおかげで、ある程度おれが日本語を操れることも、周知のとおりだと思う。けれど、その時に英語を流暢に話せる日本人女性と知り合い、彼女と結婚していることはまだ話したことがなかったと思う。驚いたかい?
さて、わざわざこんなことを書いたのは、先にこのことを書いておかないと、みんながこの後のエッセイの理解に苦しむかもしれないからだ。面倒かもしれないが、ちゃんと覚えておいてくれよ?
さて、ここからが本題だ。
あれは、雪が静かに降り積もる、七月のある日のこと。
暖かな書斎で本を読んでいたおれは、どうも途中から集中できなくなってしまい、読書を中断した。時計を見上げると、午後十時過ぎ。なるほど、いつも通りだ。
おれは、いくらしっかり夕食を食べても、この時間帯になるとおなかがすいてしまう。そのせいで、キウイ入りのグリーンスムージーを作って飲むことが習慣となってしまった。
今日のスムージーには何を入れようか、リビングにいるはずの妻の分も用意して、二人で飲むのもいいだろう――なんてことを考えながらキッチンに向かう。
すると、目的地からミキサーの声が聞こえてきた。もしかしたら……と思いながらキッチンに駆け込むと、予想通り、そこには妻がいた。
「あ、いつものスムージーを作ってるところよ。今日はほうれん草も一緒にしてみたんだけど、どうかしら」
日本人とは思えないほど流暢なニュージーランド英語でそう言って、彼女は笑う。
「いいね、ありがとう。おいしそうじゃないか。ちゃんとキウイは洗って皮ごと入れた?」
「もちろんよ」
妻の返事にほっとして、スムージーを注ぐためのコップを出す。
そうそう、日本ではキウイの皮をむいて食べるらしいんだ。みんな、信じられるかい?
――数分後、コップにはみずみずしい香りを放つスムージーが注がれていた。
「うん、うまい」
「よかった」
ゆっくりとかみしめるようにして飲み干すと、コップを流しに下げる。妻はそれを見届けるとすぐにリビングに向かい、ソファーに座って日本に住む両親との電話を始めた。俺はその隣に腰かけて彼女の様子を見ていたのだが、とても楽しそうに笑う姿が、まるで太陽のように眩しく感じられた。
ただ……電話でのやり取りの内容はたわいもない日常のことだと分かったのだが、彼女の話す日本語がおれの知る日本語の響きと違って、不思議な気分だった。
「なあ、さっきの日本語、何だったんだ?」
電話が終わった後、彼女に問いかけてみると、少しだけ首をかしげてから「ああ、『方言』のことね」と言った。
「同じ日本語なんだけど、地方によって、少し言葉が違うのよ。ほら、ニュージーランド英語も、北部と南部では少し違うでしょう? それと一緒よ」
「同じ言語でも、違う言葉がある」――このことは、誰でも一度は感じたことがあるのではないだろうか。ここは移民国家だし、様々な英語が飛び交う地だから実感しやすいと思う。
例えば、「英語」といってもイギリス英語やアメリカ英語、ニュージーランド英語など、いろいろなものがある。そして、同じニュージーランド英語でも、地方によってまた言葉が変わる。
これは、日本語も英語と同じで、地域によって様々な「日本語」が存在すると知った、そんな夜の話だ。
一応、様々なことを調べながら書きましたが、慌てていたこともあって、正直、正しい情報かどうかは自信がありません。
もし間違ったことを書いていたら、すみません。




