2020/07/01『希望』『教皇』『ナイフ』
絶望した人々は希望を求め、教皇のもとにやってくる。どうか、幸せが訪れるように祈ってほしい、と。
教皇は人々のためを思って祈り、こう告げる。
「希望はいつでも、あなたの中にあります。ただ、不安という名の雲が、希望の太陽を隠してしまっているだけで。大丈夫ですよ。あなたには雲を吹き飛ばす力があります。そして、わたしもあなたの不安が無くなるように祈っていますから」
――人に頼りきりにならず、自分で立つ力を持て。けれど、抱え込みすぎるな。
そんなメッセージを柔らかく、オブラートに包みながら人に伝え、励まし続けた。
そんなある日、救いを求めてやってきた人に、教皇がいつものように言葉をかけた時のこと。
「……あんたの言葉は、嘘くさいよ」
その人は、唾を吐き捨てるかのように言った。
「そんなの、綺麗事じゃないか」
その言葉は、態度は、ナイフのように教皇の胸を貫いた。
けれど、彼は笑う。心の傷を隠しながら。
「世の中は案外、綺麗事が正しかったりするのですよ。わたしは、そのことを実感したことがあるのです。だから、誰に何を言われようと、わたしは綺麗事を胸に抱いて生きていくでしょう」
それに、と教皇は付け加える。
「世の中、どうなるか分からないなら、綺麗事を信じていたほうが自分のためになりますよ」
彼の表情があまりに優しく、柔らかい微笑みを浮かべていたから、教皇を馬鹿にした人は、何も言えなくなってしまい、その場を静かに去っていったという。




