2020/06/26『しょっぱい』『悪魔』『天災』
しょっぱいものが、口に流れ込んできた。
いつの間にか、泣いていた。
悔しくて仕方がなかった。
自分は悪いことをしていないのに。
なのに、不祥事を起こした人物とされたり。
他人の失敗をなすりつけられたり。
色々と、不運ばかりが襲ってきたから。
世の中を呪ってしまいたい、と思ってしまった。
「お前さんの願いを叶えてあげようか?」
まるで自分の心を読んだかのような、声。
周りには、人はいないはずなのに……。
「誰だ?」
「後ろを見てみればいいさ」
振り返ってみるとそこにいたのは、黒づくめの男。
「気付いたみたいだな。俺は悪魔さ」
「あ、悪魔?」
信じられない。
けれど、心を読んだことを考えると……。
「疑っても無駄だぜ?」
……やっぱり。
「なあお前、俺と取引しないか?」
にやり、と悪魔は笑う。
「お前の命と引き換えに、願いを叶えてやろう」
どうだ? と首を傾げてみせた悪魔。
ひとつ頷いて、願いを口にした。
「この世を、滅ぼしてほしい」と。
悪魔は取引相手の人間から命を奪う。
そして、人間の願いを叶えてやった。
地震、津波、雪崩、土砂崩れ、ひょう、あられ……ありとあらゆる天災が世を襲い、そして、滅ぼした。
しかし、何もない更地に立った悪魔は、その時、気がついてしまった。
すでに一つも命のないこの世界では、人を惑わしたり、命を喰らうことはできないことに。
「……こんな世界では、生きがいもないな」
悪魔はぼそっと呟くと、霧のように姿を消した。




