2020/06/22『ロマン』『節制』『伝説』
例えば、自分の船を買い、それで世界一周旅行をするとか。
例えば、高級ホテルを貸し切りにして、そこで愛する人に告白するとか。
そんなロマンがありそうなことを想像しながら、節制の日々を送った。
ひたすらパソコン相手に、言葉を紡ぎながら。
売れない作家は辛い。
おれの存在を知っている人は、ほとんどいないだろう。
物書きだけじゃ食っていけなくて、バイトもこなしている。
身よりもなく、頼れる人が誰一人としていない。
正直、しんどい。
けれど、いつか有名になれると信じて、一日一日を乗り越えている。
ある日、担当編集者が変わった。
「初めまして、進藤さん。半澤直生と申します」
「進藤梓です。よろしくお願いします」
彼は、おれの小説を誰よりも喜び、誰よりも好いてくれて、誰よりも厳しく批評した。
それが、とても嬉しかった。
より良い小説を。そんな思いで物語を紡いだ。
おれの小説は、いつしかたくさん売れるようになった。
「進藤さん、次の小説は『伝説』が出てくるようなものはどうでしょうか?」
半澤さんはおれにとって、なんというか……戦友のような、そんな存在になっていった。
「楽しそうですね! 分かりました、書いてみます」
おれが売れっ子作家になれたのは、彼のおかげだろう。




