2020/06/11『紅茶』『伝説』『紫』
どうも、咳が止まらない。
ずっとずっと、息苦しくて仕方がない。
……どうしよう。
私……死ぬんじゃないかしら。
ママが、ずっと咳をしてる。
苦しそうで、見ていると胸がキュッ、ってする。
パパが看病して、家事を全部やっている。
あたしも、お手伝いしてるのよ。
ママはずっと、ベッドで寝ている。
なのに、ずーっと、咳をしてる。
『どんな病気でも治せる、伝説の薬屋が来ているらしいよ』
パパに頼まれておつかいに行った、帰り道。
噂を聞いて、考えた。
……その『伝説の薬屋さん』なら、ママの咳も治せるのかな?
元どおり、元気になるのかな?
「あの、すみません」
道ゆく人に、尋ねてみる。
「『伝説の薬屋さん』って、どこにいますか?」
「いらっしゃい、小さなお嬢さん」
いっぱい歩いて、たどり着いた先。
小さなテントに、その人はいた。
「……ママの咳が、止まらないんです。ここ最近、ずっと、ずっと。お願いです、ママの咳を治してください」
叫ぶようにお願いすると、その人はにっこりと微笑んだ。
「必ず、治してあげましょう。ほら、入り口に立っていないで、もっと中へ」
手招きされて中に入ると、そっと頭を撫でられた。
「えらいねぇ、一人でここまで来たんだね」
その人は、小さな小包を取り出した。
「この中に、紅茶の茶葉が入ってる。この茶葉でお母様にお茶を淹れてあげなさい。紅茶が、咳の薬になるから」
「ありがとうございます! ……あの、お代は……」
「お嬢さんからはもらえないよ。タダであげるから、早くお母様にそれを届けてあげなさい」
優しい笑みを浮かべるその人に、深く頭を下げ、家に向かった。
「ママ! これ、お薬!」
娘が突然、そう言って、カップに入った紫色の液体を持ってきた。
「ごほっ……これ……なあに?」
「だーかーらー、おくすり! この紅茶、咳に効くんだって!」
咳が止まらない中、カップを手に取る。
効くかどうかなんて分からないけれど、娘の気遣いが嬉しかった。
「ありがとう……ごほごほっ」
紫色の紅茶を、飲み込む。
その瞬間、何故か気分が良くなった気がした。
「……どう?」
「あら……咳、止まったわ!」
息が、苦しくない。
思い切り、空気が吸える。
「ありがとう……!」
嬉しくて、嬉しくて、たまらなくて。
ベッドから降りて、愛しい娘を抱きしめた。




