2020/06/09『青』『机』『犯罪』
青い絵の具を、ぶちまける。
何度も何度も、ぶちまける。
パレットに咲く、色とりどりの青を掬い取って、絵筆でキャンバスに塗り付けていく。
机の上に転がる、何本もの、何色もの絵具チューブ。
中身はすべて、「青」だった。
緑がかった青も、紫に近い青も、白に偏った青も、黒のような青も。
全部、全部、「青」だった。
全ての「青」をかき集めて、それでも見つからない「青」があったのだ。
ならば、全ての「青」を使って描くしかない、と思ったのだ。
それは、遠い昔に見た空の色。
今と違って貧しくて、生きることで精いっぱいだった頃。
それこそ、盗みや掏りやそんな犯罪をしないと生きていけないような、そんな苦しかった頃。
あの時に見た、果てしなく続き、どこまでも深く、あまりに美しくて心を奪われた「青」。
あの「青」が欲しい。
あの「青」が……。
……そう願った日のことは、一生忘れないだろう。
いや、絶対に忘れられない。
だから、何としても描きあげたくて。
出来ることなら、もう一度見たくて。
あの時の「青」を、手元に置いておきたくて。
青い絵の具を、ぶちまける。




