2020/06/08『科学』『真実』『悪魔』
世間にはあまり知られていない、二人の天才科学者がいた。二人の存在はまるで都市伝説のように、ほんの一部で語られるだけだ。
一人は、冷徹でどこまでも冴え渡る頭脳を持った『悪魔』。
もう一人は、課題発見力と柔軟な発想を兼ね備えた『天使』。
本名も知られていない彼らは、その別称の由来もよく分かっていないという。
どこかの街にある、薄暗い地下の研究所。
そこに、髪も目も服も、何もかもが黒い青年がいた。髪は全体的に長めで、前髪は鋭いつり目にかかってしまうほどだ。
「おはよう、『悪魔』。待たせたかな」
そこにやってきたのは、白髪碧眼の青年。白い服を身に纏い、垂れ目を細めてにこやかな笑みを浮かべている。髪は短く切られていて、爽やかな印象を見るものに与える。
「――ああ、おはよう『天使』。たいして待っていないさ。さ、始めようか」
悪魔と呼ばれた黒い青年は愛想なく答え、近くに畳んでおいた白衣を身に付ける。
二人は、幼い頃から仲の良い親友だった。
『悪魔』と『天使』は、その見た目と性格からお互いにつけあったあだ名で、今も相手のことを名前で呼ぶことはない。噂で二人の本名が流れないのは、これが原因だろう。
でも、二人にとってそれはありがたいことだった。
今している研究は、決して口外できるようなものではなかったのだから。
「……なあ『悪魔』、この研究を始めたきっかけって覚えてるか?」
「覚えてるさ……おばさんが死んだことだろ?」
「そうだよ……母さんがあの時死ななかったら……今も生きていたなら……こんなこと、考え付かなかっただろうな」
「……」
機材を操作する音だけが、研究室に静かに響く。
「……なあ、こんなこと、許されるのかな」
「……知らねえよ、そんなこと。でも、もしバレて殺される日が来たとしても、俺がついてるさ。それに、思いついたのはお前かもしれないが、それを現実のものにしようと言ったのは俺だ。だから、お前が気に病むことじゃない」
「……そうか?」
「そうだよ。……もう一度、会いたいんだろ?」
「うん……会いたいよ」
二人の試行錯誤は、まだまだ続く。
「……はは、今考えてみると、俺たちのあだ名、なかなか面白いな」
「そうか?」
「ああ。考えてみろよ、俺が『悪魔』でお前が『天使』だろ? 敵対する者同士で手を組んで、科学の力を使って神に反乱するみたいだ」
「確かに……確かにそうだな! 全ての命が抗えない『死』に抗う『悪魔』と『天使』か……」
おかしそうに『天使』は笑い、ふと、真剣な表情になった。
「なあ、おれらは神に勝てるんだろうか?」
「勝てるさ。心配すんなよ」
――『悪魔』と『天使』が何をしようとしているのか。真実は、二人しか知らない。




