2020/06/07『現実』『傲慢』『コーヒー』
青が、窓の外から差し込んでくる。
ブルートパーズのような色は、現実を優しく、でも冷たく突きつけてくる。
……夜明けだ。もうすぐ、朝がやってくる。
一晩眠れなかったおれは、緩やかに燃え上がる炎のような色の空を、ガラス越しに眺めていた。
しんとした室内に、空気清浄機の機械音が静かに響き渡る。車が大して走っていないこともあって、音が存在しないように感じられるほどしんとしている屋外に、すべてが眠っている世界の中で、起きているのはおれだけなんじゃないか、なんて錯覚を覚えた。
かあ、かあ、かあ……。
ハッとした。烏の鳴き声が静寂を引き裂いていく。
……生命が、目覚め始めている。眠りから覚めて、動き始めている。
嬉しいような、悲しいような、そんな感覚に陥りながらも、笑っていた。
乾いた声が、虚しく寝室にこだました。
……もう諦めて、起きてしまおう。そうしよう。
ぎしぎしと音を立てながらベッドを降り、階下にあるダイニングキッチンへ。夜明けの光で十分明るいし、電気をつける必要はなさそうだ。
起きたはいいものの、さて、何をしようか。
……ま、朝といえばアレだな。
鍋に水を汲み、お湯を沸かす。マグカップを取り出しながら、まだ寝室で寝ている同居人のことを思い出した。
あいつは、ちょっと傲慢なところもあるけれど、可愛らしくてなんだか憎めない奴だ。猫みたいな笑顔とか、態度とか。そんな例えが合っているのかは分からないが、人に好かれる質の人であることは間違いない。無愛想なおれとは、大違いで。人に好かれる要素なんてほとんどないような、そんな、無味無臭のおれとは違って。
でも、あいつは不思議なやつだ。味も香りも何もないおれを面白がって、無愛想なところがいいと笑って、そしていつの間にかおれの家に転がり込んできて、居候を始めて。
……つくづく、不思議な奴だ。
しゅんしゅん、という音がおれを現実に引き戻す。いけない、お湯を沸かしていることを忘れるところだった。
マグカップに、インスタントコーヒーをぶち込んで、お湯をコップの半分くらいまで注ぐ。粉を溶かしたら、冷蔵庫の牛乳をコップの八分目まで。ぐるぐると混ぜれば、おれ好みのコーヒーが出来上がる。
ダイニングキッチンの窓から昇る朝日を眺めながら、ほろ苦く優しい目覚めを飲み込んだ。




