表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
217/430

2020/06/04『海』『白』『雨』

 中学校の教室からは、海がよく見えた。

 あの子と一緒に歩いた、海が。


 幼馴染のあの子は、いつでもふんわりと笑う、少し気弱だけど、優しい子だった。

 あの子と一緒に、大きくて白い入道雲が浮かぶ海を歩くのが好きだった。

 小学生の頃は、週に一度は必ず一緒に、砂浜を散歩した。いつまでも仲良しでいようね、なんて約束を交わしながら。


 あの子と顔を合わせなくなったのは、中学生になってすぐのこと。クラスが違う、ということもあったけれど、主な理由は、それじゃない。

 ある雨の日。帰ろうとしたら、ずぶ濡れになって立ちすくんでいるあの子がいて。私はたまたま折り畳み傘を持っていたから、それを彼女にさしかけ、名を呼んだ。……けれど。

「――来ないで」

 睨み付けるようにして私を見ながら、彼女は絞り出すように言った。

 心優しい彼女が、ふんわりと笑う彼女が睨みつけてくるとは思わなくて、気圧されて私は一人で帰った。

 けれど、その道中で疑問が浮かんできた。

 ――あの子はいつでも折り畳み傘を鞄に入れていたはずだけど、それはどこにやったのだろう?


 答えは、翌日、すぐ分かった。

 部活で仲良くなったばかりの、あの子と同じクラスの子がひそひそ声で教えてくれた。

「えっ? あの子と仲良いの? ……それ、隠しときな。今、あの子……いじられてるから」

 いじられてる、なんてオブラートに包んでいたけれど、要するに、あの子はいじめにあっているらしかった。

 彼女が持っているはずの折り畳み傘は、隠されたか壊されたか、彼女が使えないようにされてしまったのだろう。そして、昨日のあの子の態度は……私を、いじめに巻き込まないための優しさ、なのだろう。

 それ以来、私はあの子と顔を合わせていない。

 あの子に声をかけることも、笑いかけることも、しなかった。


 どうして、話しかけられなかったんだろう。

 笑顔を向ける、そんな簡単なことが、なんでできなかったんだろう。


 ――あの子が不登校になったらしい。

 部活の朝練でそんな噂を聞いた私は、海を見ながら考える。


 あの子の家に行って、声をかけてみようかな。


『ねえ、海に行こうよ』って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ