2020/06/03『過去』『天災』『憤怒』
これは、孤独な魔女の、過去の話。
彼女が人間を、嫌うわけ。
昔、魔女は小さな村に住んでいた。
ちょっといたずらもするけれど、皆に優しい魔女だったから、彼女は皆に愛されていた。
魔女も村人を愛していた。そして、困っている人がいれば手を差し伸べた。
皆が笑顔な、幸せな日々。
それは、長続きしなかった。
――きっかけは、ただの天災だった。
小さな村を襲った、大地震。
たくさんの家が壊れ、たくさんの人が死んだ。
その時、魔女は皆を守ろうとしていた。
誰かの上に降り注ごうとした瓦礫を弾き、怪我を負っている人を見つければそれを治し、逃げ遅れた人を安全な場所に連れていった。
けれど、彼女の努力を誰も知らなかった。
そして、皆が彼女を責めた。
あの地震は魔女が起こしたのだと。
彼女は悪い魔女だったのだと。
そんなやつは追い出してしまえと。
憤怒の声が村に響き渡った。
孤独な魔女は、今は村の近くにある森の、奥深くに住んでいる。小さな小屋で、暮らしている。
――人間なんて嫌いさ。
それが彼女の口癖だ。
けれど、何故だろう、魔女がその言葉を口にする時、まるで自分に言い聞かせるかのような口調になるのだという。
――人間なんて嫌いさ。




