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2020/05/31『ナイフ』『病』『犯罪』
ナイフを振り上げた。
こうすれば、全てが解決するのだと思った。
犯罪とは呼ばれなくても、罪というのはたくさんある。普段気にしていないだけで。
例えば、誰かの声を無視することだとか。
何気ない言葉で誰かを傷つけることだとか。
――多分、罪名なき罪を犯す病に罹っていたのだと思う。
なにか言葉を口にすれば、誰かが必ず涙をこぼし、傷ついたような顔をした。
普通に暮らしているだけのはずなのに、いつも「話を聞いてもらえない」と糾弾された。
だから、多分存在するだけで罪を犯してしまうんだろうな、と思う。
そんな人間……いらないよね?
このナイフで自分を刺してしまえば、誰かを不幸にすることはない。
周りを不幸せにするだけの人間が死んだところで、誰もそれを惜しむことはしない。
これが、正しいこと。
自分が罪を犯さないための、唯一の方法。
手が、震えていた。
けれど、ナイフは自分が思い描いた通りの役目を果たしてくれた。
――許されることか分からないけれど、みんなの幸せを、最期に願った。




