2020/05/23『都市』『王国』『強固』
夢の中で出会った、塔に閉じ込められた姫君。
彼女の声にならない声は、助けを求めていた。
あまりにリアルな夢。
けれど、そこがまるで異世界のような場所だったから、やっぱり夢なんだろうと思ったのだ。
異世界なんて、あるわけがない。
けれど、お姫様の声はまだ聞こえていた。
「助けて」
苦しそうなその声を聞いていると、なんとかして助けてあげたいような気持ちになっていた。
……ただの幻聴に過ぎないだろうに、どうして。
「助けて……」
ああ、でも、もしこの声が本物なら。
本物なら、今すぐにでも助けてあげたい。次元を超えて、異世界でも夢の国でも、彼女がいる場所へ行きたいと思った。
……いつの間に、こんなに強固な願いになっていたのだろう。
次元を超えてしまうほど、強い願いに。
気がついたとき、目の前に広がる景色は一変していた。
電線もビルもない、ただただ広い空。
少し遠くに、大きな都市が見えた。その中央に高くそびえる塔……あそこに姫君がいるのだと、なんとなくそう思った。
ここは、何かの街道らしい。
通りがかりの人に、尋ねてみた。
「すみません。ここはどこですか?」
「おかしなことを言う子だね。ここは王国イェルクラウンの王都カルデルに続く街道じゃないか」
……聞いたことのない名前ばかり。
通りがかりの人が来ている服は、肌触りの悪そうなベージュ色のもの。荷物は、これまた見たことのない生き物が引いていた。
……やってきてしまったのだ。異世界に。




