203/430
2020/05/21『メモ』『妖精』『戸惑い』
「……え?」
机の上を片付けている時、おれは思わず、声をあげてしまった。
使っていないはずの、新品のメモ帳に、何かが書いてあるのだ。
『はじめまして。交換日記をしませんか?』
ああ、もちろん戸惑ったさ。
だって、男子高校生に向かって交換日記をしようなんて言い出す奴がいるか、普通? それに無断で新品のメモ帳使ってるし。ってか、ここは学校でも塾でもなく、家の中だ。しかも、鍵付きの自室。簡単に中には入ってこられない……というよりも、入ってきてたら怖いわ! 不審者かお前は!? って話だ。
……というわけで、その紙を切り取ってゴミ箱に捨てておいた。
けれど、それで終わりじゃなかった。
あれから毎日、同じメモ帳に同じ文言が書かれている。それでもう諦めて、妖精の悪戯に付き合うような気持ちで交換日記をしている。どうしてこんな例えなんだ、なんて訊かないでくれ。おれもよく分からないけれど、パッと浮かんだのがこの言葉だったんだ。
交換日記の相手が分からないというのは怖い。
でも、知るのも怖い。
だから結局、相手に正体を訊いたことはない。




