2020/05/20『現実』『絶望』『悪魔』
黄昏時。歩道橋の上で、一人佇む青年がいた。
盲目でもないのに光を映すことのない彼の目は、絶望の色をしている。
橋の下で流れるのは、光の川。車が色とりどりの光を放ちながら、何処かへと向かっていく。
……あの中に飛び込んだら、きっと楽になれるんだろうな。こんな現実とは別れて、さ。
幸か不幸か、歩道橋には彼以外の人がいない。
何も考えずに、彼は眩い光の川へと飛び込むため、欄干を乗り越えようとした。
「――くくっ。哀れだねぇ、全く」
嗤う声がして、振り返る。
そこには、黒ずくめの服を着た男がいた。
痛んでいるわけでもないのに艶のない髪。そして、青年と同じ、光のない目。
「誰だ、お前は」
「ボクかい? ボクは悪魔さ。力のない善良な仔羊のために、力を貸すものってとこかな」
「……」
青年は黙り込む。目の前の男の言葉が本当か嘘か、判断ができなかったのだ。
「なぁ、青年。もしキミが望むなら、ボクは何でもしてあげよう。もちろん、代償はあるけどね」
「……代償?」
「キミがいま捨てようとしていたもの。それをもらおう。ああ、死なないように仮初の命を代わりにあげるよ。ヒトの命には、無限大の可能性があってね。それを喰らうことで、ボクたちは何でもできる存在であり得るのさ」
青年は黙り込んだ。命を売り渡せば、自分は幸せになれるのだろうか?
「この絶望しかない現実を塗り替えたいんだろう?」
……そうだ。
こんな辛い思いはもう、したくない。
目の前の悪魔の手を取れば、それが叶う。
悪魔が差し伸べた手を、握りしめた。
「――契約、成立だね」




