2020/05/18『病』『サバンナ』『紅茶』
まるで、それは何かの病気のようだった。
1ヶ所にずっと留まっていると、どんどん息苦しくなってくる。
旅に出たくてたまらなくなる。
だから、ずっと同じ場所にはいられない。
広い広い、サバンナで。
たった1人、野宿をしようとしていた。
さて、紅茶でも淹れようか。
そう思ったとき、ふと、君を見つけたんだ。
どこかで会ったことがあるような気もしたし、初対面のような気もした。
ただ、君は「やあ」とひとことだけ言って、僕の近くにやってきた。
「君も飲むかい? ここはね、僕が泊まる200ヶ所目の場所になるんだ。だから特別に、とっておきの紅茶を淹れるつもりなんだけど」
僕の言葉にこくりと頷くと、君は僕の隣に座り込んだ。
お湯を沸かしながら、ノートを広げた。
「これはね、僕が泊まってきた場所の記録なんだ。君も見るかい?」
「うん、見たいな」
ノートを渡すと、君は食い入るように文字列を眺め始めた。僕はポットに紅茶の茶葉を入れ、沸騰したお湯を注いだ。しばらくの間蒸らしてから、2つのカップにそれを注ぐ。
「色々な場所で、たくさんの物語を見てきたんだね」
紅茶が入ったカップを渡すと、君はノートを僕に返しながら言った。
「まあね。もしかしたら僕は、自分の知らない世界を求めて旅しているのかもしれない」
「君が見つけた世界を、もっと見てみたくなったよ。またいつか、どこかで出会う日があったら、またそのノートを見せてくれないか?」
そう言って笑う君は、今まで出会ってきた人たち全てに似ていて、けれど、知らない人のようだった。
僕も笑った。今まで出会ってきた人たち皆に向けてきた表情だった。
「もちろんさ。君に再び会う日まで、たくさんの場所を訪れて、その記録を残しておこう。まだまだ僕も、物足りないんだよ。まだまだ知らない物語が待っているような気がしてね」
「それじゃあ、君と僕が出会った夜に」
僕はそう言って、カップを持ち上げる。
「――乾杯」
軽やかな出会いの音が響いた。
連続投稿を始めて108日目となった今日、「宝箱のタペストリー」は200部分目を迎えることが出来ました。
この物語を手に取り読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!




