2020/05/15『強欲』『森』『強固』
この村にはこんな言い伝えがあったね?
『森の奥深くに強欲な魔女が住んでいた。彼女はただでさえ貧しい村の人々から、様々なものを奪い去っていった。けれど、村人は何もできなかった。彼女が恐ろしい魔術を使うと信じていたからだ。人々は魔女におびえて暮らした。けれど、ある日若者が強固な決意を胸に立ち上がった。そして魔女と激闘と繰り広げ、とうとう倒したのだという』
ねえ、あんたはこの言い伝えを信じるかい?
森の中で、つつましい生活をしていた魔女は、ある日突然、見知らぬ若者に殺されかけた。
魔女は確かに、どんな魔術でも使いこなせてしまう者だった。けれど、彼女は心優しかったから、人助けのためにしか魔法を使ってこなかった。村人のためにこっそり土壌を良くしたりするような、そんなばれにくい魔法を使っていた。恐れられては困るから。自分がやったとばれたら、もしかしたらこの過ごしやすい場所を追い出されたり、下手したら殺されたりするかもしれないから。
魔女は若者を眠らせる魔法を使った。そして涙を流しながら、どうしてここに攻めてきたのかを知るために、使いたくなかった魔法を使った。人を操る、催眠術に近いような魔法を。
「どうしてここを攻めてきたの?」
「森の奥深くに住む強欲な魔女が、村人から様々なものを奪い去っているというから……」
それを聞いて、魔女は震えあがった。そんなことは、していない。
誰だろう。自分の名を使って人を不幸にしているのは。
魔女は姿を消して探した。そして見つけた。
村人のものを盗み、地下に隠し、一人だけ苦しむことなく暮らしている女を。
許せなかった。
魔女は女が眠っている間に、地下室に隠していたものをすべて自分の家に転移させた。そして、心苦しかったが、女を病気に見せかけて殺した。
そして、家に訪れた若者にかけていた眠りの魔法を解き、女が地下室に隠していたものを渡しながら「これは皆さまのものです。お返しいたしますし、二度とこのようなことはいたしませんので、許していただけませんか?」と言った。
若者は「それなら許しましょう」と頷き、女が盗んだものを持ち帰っていった。
村に戻った若者を見て、村の人々は「若者が魔女に勝ったのだ」と思い込んだ。若者は喜ぶ皆を見ていると本当のことを言い出せず、そのまま村の英雄になった。
……みたいなことがあったら、どうだろうねえ?




