2020/05/13『勇者』『恋人』『太陽』
「にしても勇者だなー、お前」
「……は?」
昼下がり。会社の同期と一緒に、太陽の照りつける屋上で弁当を食っていると、唐突にそう言われた。
「なんだよ、急に」
「お前の彼女、柊さんなんだろ? あの不倫しまくるってことで有名な」
同僚の言葉に思わず、咀嚼していた唐揚げを吹き出しそうになった。
「なんで知ってるんだよ!?」
「は? 逆に知られてることを知らなかったのか? 社内じゃもうかなり有名だぞ?」
「まじかよ……」
血の気が引いていくのが分かる。一瞬「社内の人には内緒ね」と言って妖艶に微笑む彼女の姿が見えた気がした。
「っていうかお前、なんて言った? 柊さんが、不倫しまくることで有名? 嘘だろ?」
「ほんとほんと。お前、呆れるほど噂話に疎いもんなぁ。なんでお前のところにはそんなに情報がいかないんだ?」
「知らねえよ!」
そんなことより、恋人の悪い噂なんて、聞きたくなかったんだけどなぁ。嘘だと思いたいな、柊さんが不倫しまくる人だなんて噂。
なんとなく同僚の顔を見たくなくて、空を見上げる。雲ひとつない、晴れ渡った空。何故か無性に腹が立って、弁当の中身をかき込んだ。
乱暴に米を噛み、嚥下する。昼飯に八つ当たりしたのは申し訳ないが、少し気分が落ち着いた。
……そういや今日の夜、柊さんと会う約束をしてるんだよな。
ふと、そんなことを思い出した。
逢引のときに、この噂について聞いてみるべきか。そして、社内中にこの恋愛が知れ渡っていることを伝えるべきか。分からなくて、なんとなく胸がモヤモヤして。
どうしようもなかったから、ペットボトルの緑茶を飲んで誤魔化した。




