2020/04/21『妖精』『海』『畑』
海の見える、高台の町。
そこには、広い広い畑があった。
それを耕し食物を育てているのは、一人の若い青年。
そして、その周りを飛び回る、一人の妖精だった。
――青年はもともと、海が近い町に住んでいた。
しかし、ある夜、突然親に捨てられた。眠っている間に。海の街と高台の街の間にある森に。
悲しくて、寂しくて。一人彼が泣いていると、妖精が哀れに思ったのか、近付いてきた。
本来、妖精の姿は人間には見えない。だから、もし慰めたとしても、きっと青年は気づかない。
それでも、独りにさせたくない。そう、妖精は思ったのだ。
青年は、驚いた。目の前に妖精がいて、自分に声をかけてきたのだから。
妖精も、驚いた。自分の姿が、目の前の彼に見えていると気づいたから。
その時から、二人はよき親友になった。そして、力を合わせて住む場所を探し、畑を作り、野菜を育て、それを売り、たくわえを作った。妖精は植物についてとても詳しかったから、農家は二人にぴったりな職業だったのだ。
「今日もたくさん野菜が採れたね。君のおかげだよ」
「ううん、あなたの作業がとても丁寧で、野菜想いだからよ」
二人は笑みを交わし、収穫した野菜を二輪車に乗せ、それを引きながら畑を後にした。




